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東京地方裁判所 平成7年(ワ)10626号 判決 1996年1月16日

原告

倉橋成美

被告

小宮信明

主文

一  被告は、原告に対し、金三一万七九三七円及びこれに対する平成七年一月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、四七万一九三二円及びこれに対する平成七年一月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、交通事故に遭つて損傷を受けた自動車の所有者が、相手車両の運転者に対し、損害賠償等を請求した事件である。

二  争いのない事実

1  本件交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

事故の日時 平成七年一月五日午後三時三〇分ころ

事故の場所 東京都中央区銀座八丁目六番一一号先交差点(別紙事故発生状況現場図参照。以下、同交差点を「本件交差点」といい、同図面を「別紙図面」という。)

原告車両 普通乗用自動車(練馬五三ね二九七二。原告所有)

被告車両 普通乗用自動車(水戸三三つ二二五六。被告運転)

事故の態様 原告が原告車両を運転し、本件交差点を直進しようとしたところ、同交差点を右折してきた被告車両の左前部と原告車両の右前部とが衝突した。事故の詳細については、当事者間に争いがある。

2  本件事故後の状況等

本件事故当時、被告車両は、車検の有効期限が切れており、本件事故後、被告は、被告車両を移動せず、事故現場に放置した。

三  本件の争点

本件の争点は、原告の損害額のほか、被告の過失の有無及び原告、被告双方の過失割合である。

1  損害等

(一) 原告の主張

原告は、本件において次の(1)ないし(4)の合計五二万四三六九円から原告の過失割合一〇パーセントを減じた四七万一九三二円を請求する。

(1) 修理費 三三万一〇四二円

(2) 代車料(五〇〇〇円の一四日分) 七万〇〇〇〇円

(3) 弁護士費用 四万〇〇〇〇円

(4) 被告車両レツカー代及び保管料 八万三三二七円

原告は、次の請求を選択的に主張する。

あ 被告は、被告車両を移動しなかつたため、やむなく原告が訴外株式会社フオード新東京(以下「訴外会社」という。)に被告車両の移動と保管を依頼した。原告が訴外会社に対して負担したレツカー代二万一五二七円と保管料六万一八〇〇円(合計八万三三二七円)も本件事故と相当因果関係のある損害である。

い 原告は、義務なくして被告のために被告車両の移動と保管の事務を開始し、有益な費用を負担したから、被告に対し、レツカー代二万一五二七円と保管料六万一八〇〇円(合計八万三三二七円)の償還を請求する。

(二) 被告の認否

原告の損害については、争う。

2  被告の過失の有無及び原告、被告双方の過失割合

(一) 原告の主張

被告は、本件交差点に進入するに際し、一時停止の標識に従わず、急に右折してきた過失があるから、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告の主張

被告は、本件交差点の手前の停止線でいつたん停止した後、左方を確認するため再度停止したところ、原告車両が時速四〇キロメートルを超える速度で前方不注視のまま進行してきたことにより、本件事故が生じたものであり、原告には相応の過失がある。

第三争点に対する判断

一  原告の損害等について

(一)  修理費 三三万一〇四二円

甲一の1ないし9により認められる。

(二)  代車料 認められない。

本件事故により原告が代車を使用し、その費用を負担したことを認めるに足りる証拠はない。

(三)  被告車両レツカー代及び保管料 認められない。

前記争いのない事実に、甲二、四、乙一、原告本人、弁論の全趣旨を総合すると、原告と被告とは、それまで面識等は全くなく、本件事故により被告車両の左前部が損傷したが、事故後も、被告が被告車両を事故現場付近から移動しなかつたため、原告は、被告のため、平成七年一月六日訴外会社に対し、被告車両の移動と保管を依頼したところ、同月七日有限会社ケイ・アイ・ケイ・ロードサービスが被告車両を訴外会社勝どき営業所まで移動させ、訴外会社が被告車両を同年三月三一日まで保管したこと、原告は、訴外会社から被告車両のレツカー代として二万一五二七円、保管料として六万一八〇〇円を請求されていること、以上の事実が認められる。

右の事実をもとにすると、原告が被告車両に関し、訴外会社に対して負担するレツカー代及び保管料は、いずれも本件事故による不法行為と相当因果関係を有する原告自身の損害とはいいがたいから(他にこれを認めるに足りる証拠はない。)、この点を理由とする請求は理由がない。

次に、原告が被告のため、義務なくして被告車両の移動及び保管の事務を開始したことにより、事務管理が成立するものと解されるが、管理者に費用償還請求権が認められるためには、管理者が有益なる費用を支出したことが必要であり(民法七〇二条一項)、原告は未だ債務を負担しただけで費用を支出したものとは認められないから、この点を理由とする請求も理由がない(原告としては、本人たる被告に代弁済をさせるか、原告が支出したうえで被告に対し、費用の償還を請求すべきものと考える。)。

二  被告の過失等について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実に、甲一の1ないし9、二ないし四、乙一、原告本人及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場付近の状況は、別紙図面のとおりである。

本件交差点は、中央通り方面から外堀通り方面に向かう幅員一一・四メートルの中央線のある二車線(各片側幅員五・七メートル)の道路(以下「甲道路」という。)と、晴海通り方面から新橋一丁目方面に向かう幅員八メートルの道路(以下「乙道路」という。)とが交差する信号機により交通整理の行われていないT字型交差点である。甲道路の両側には、パーキングメーターによる駐車ができるようになつている。

道路規制は、甲、乙道路とも最高速度が四〇キロメートル毎時に制限されているほか、いずれも一方通行とされている。また、乙道路の本件交差点手前には、停止線が設けられ、一時停止の標識が設置されている。

原告から右方の乙道路、被告から甲道路の左方への見通しは、甲道路の第二車線に駐車していた車両のため、いずれも不良であつた。

路面は、いずれもアスフアルトで舗装され、平坦であり、本件事故当時乾燥していた。

(二) 原告は、本件事故当時、年始回りの挨拶のため、一人で原告車両を運転し、第一車線上には信号待ちの車両が並んでおり、原告は一ブロツク先の交差点を右折するつもりでいたことから、本件道路の第二車線の左寄りを時速約三〇キロメートルで進行中、前方六、七メートルの地点において、本件交差点の右方の乙道路から被告車両が原告車両の急に出てきたうえ、道をふさぐようにして止まつたように見えたため、原告がブレーキを踏む間もなく、原告車両の右前部と被告車両の左前輪付近とが衝突した。

原告は、被告車両がもう少し小回りに右折していれば、衝突しなかつたのにと思い、原告車両から下りて被告車両のところへ行き、文句を言いかけたが、被告車両には、運転者の被告のほか同乗者がおり、原告は二人の様子を見て、何も言わなかつた。

その後、原告は、付近の土橋交番に事故のあつたことを届けたが、事故の状況については、原告、被告とも特に話はしなかつた。警察官が被告に車検証の提示を求めた際、被告は、車検証を持つていなかつた。

本件事故により原告車両は、右フロントフエンダーが損傷し、フード右中央部が曲損したほか、車体内部にも影響が及んだ。原告車両の修理には三三万一〇四二円を要した(部品代一二万九八八〇円、工賃一九万一五二〇円、消費税九六四二円)。

(三) 被告は、甲乙道路をよく通行し、道路の状況等はよく知つていたものであるが、本件事故当時、知人の大曽根を同乗させ、被告車両を運転し、乙道路を進行中、本件交差点には甲道路の左方いつぱいに駐車車両があり、左方の見通しがよくなかつたことから、いつたん甲道路に進入したうえ、駐車車両より前に被告車両の先端部をタイヤの分位出して停止したところ、甲道路を左方から直進してきた原告車両と衝突した。

被告は、本件事故当時、原告が運転しながら、手を顔にかざして日除けがわりにしていたと述べるが、原告は、本人尋問において、これを明確に否定しており、他に被告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

2  右の事実をもとにすると、信号機により交通整理の行われていないT字型交差点における直進車両と右折車両との間の本件事故において、被告は、優先道路を直進する車両の進行を妨げてはならない注意義務があるのにこれを怠り、交差道路内に被告車両の先端部分を進出させて停止したことにより、本件事故を引き起こしたものであるから、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき主要な責任がある。

他方、原告としても、本件交差点を通過するに際して法令上の徐行義務が課せられていない(道交法四二条一号かつこ書き)とはいえ、甲道路右側の駐車車両により本件交差点右方の見通しが悪いのであるから、右方の安全を確認すべき注意義務があるのに、これを怠つた点に過失があるというべきである。

3  そして、原告及び被告双方の右過失を対比すると、原告の損害額の一〇パーセントを減額するのが相当である。すると、被告が原告に対し賠償すべき金額は、二九万七九三七円(一円未満切捨て)となる。

三  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過及び認容額その他諸般の事情に鑑みると、原告の本件訴訟追行に要した弁護士費用は、二万円をもつて相当と認める。

第四結語

以上によれば、原告の本件請求は、三一万七九三七円及びこれに対する本件事故の日以後である平成七年一月六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を認める限度で理由があるが、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 河田泰常)

事故発生状況現場図

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